レンタル
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
昭和のにおい

入院中は、読書がたくさんできそうだな、
と思っていましたが、意外に出来ないものです。

婦人科病棟の時は、とにかく辛く苦しい毎日でしたので
本を読む余裕はほとんどありませんでした。

本を読むには、気持ちを無にする必要があって、
だから、他に気が行ってしまうとダメなのです。

今は余裕が出てきました。
だから、わがセバス氏にリクエストして買ってきてもらいますが
先日、リクエストの本がなかったので、代わりにといって
『父の詫び状』向田邦子著をもってきてくれました。

何度読んでもいい本です。

・・・そして、とても、とても昭和です。

私は、読みすすめるうち、
父と祖父の事を思い出しました。
特に祖父がいた時代は昭和そのもの。
目を閉じると祖父の笑顔が浮かんできます。

祖父の家は、実家の向かい。
いつも優しい笑顔で、私は大好きでした。

祖父の定位置は、縁側を背にした茶の間の一番いい場所。
私から見ると、右側に茶箪笥があって、そこはとても秘密めいた宝箱。
引き出しからは、使い込んだ真鍮製の虫眼鏡、懐中時計、刃物、やすり・・・。
マルチお道具箱といった具合で小さいころから興味しんしんだったのを覚えています。

左側には、藍色の染付けがやや豪華な火鉢。
『おもち食べるか?』といって、よく焼いてもらったっけ。

でも、私をはじめ孫衆は、火鉢はちょっと怖かったな。

お灸をする祖父は、
百草を丸めて、火鉢の炭から火をつけてるとき
『悪い事をすると、お灸をすえるぞっ』
といって脅かすのが大得意。
『いやだー!』と本気で逃げる私達。
それを見て祖父は満足そうに笑うのです。

祖父の家には、三つのお庭があって
一つは、祖父の後ろの縁側の前。
ここは私達孫のために作ってくれた遊び場。
ブランコ・段違いの鉄棒・砂場。
今考えるととても贅沢かも・・・。

砂場は葡萄棚の下にうまい具合出来ていて、
私達は、いつもそこでお城を作っていました。
『みてー、大きいの出来たよー!』
『お水流すからみてー!』
といって祖父に声をかけていた。
そして、いつも祖父は笑っていた。

二つ目は、祖父の花壇。
普段着物&ふんどしの祖父が手塩にかけて育てた花は薔薇。
見事に咲いた時は、薔薇と一緒に写真を撮ってくれた。

三つ目は、お座敷に面した日本庭園。
狭くてあまり日当たりもよくなかったけど
夏の時期は涼しくって、枯山水の川に水を流して
笹船をつくって浮かばせた。
『はやく、はやく!沈没しちゃうよ!』
すぐ引けてしまうので、水を補充する係りは大変だった。
そんな様子をみて、うちわをあおぎなら祖父はやっぱり笑っていた。

寝たきりになって数年、亡くなったのは私が高1の時。
夏の台風の夜、関係者が集まって、
私達は、『おじいちゃぁーん、おじいちゃぁーん』
と耳元で何度も何度も叫んだけど。逝っちゃった。

その時、ただひとり間に合わなかった父。
どこかで、飲んでいたらしい。

お葬式が終わって、しばらく父は、ぼーっと
砂場の前の縁側に片膝立てて、タバコを吸う日々が続く。
見ていて哀れだった。

祖父の定位置は、その後も空いたまま、
祖母も亡くなり、
その家も、庭も、昭和とともに取り壊された。

土地は半分になり、
安っぽい賃貸アパートをかねたつまらない家になってしまった。

行く理由がなくなってしまった。



でもね、思い出だけは、まだまだ、いっぱいあるんです。

私の昭和。

『父の詫び状』は、そんな昭和を思い出させてくれます。 


父の詫び状



オサレに読む comments(0) trackbacks(0)
スポンサーサイト
- - -
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://watashiosare.jugem.jp/trackback/37
<< NEW | TOP | OLD>>